羽生さんは将棋で戦っている最中に、寝ます。
ネットで生中継されているのを分かっているのに爆睡。大きなタイトルがかかった勝負でも寝ます。ふつう寝たら負けそうなものですが、なんと勝ってしまうのです。
羽生さんの仕事は将棋ですから、仕事中に寝てるってことです。例えるなら車の販売員がお客さんの目の前で爆睡してるけど、最後にはベンツを売ってしまうようなもの。スゴ腕を通り越して、訳が分かりません。
なぜ羽生さんは勝負の最中に寝てしまうのでしょう?
将棋の世界には「盤外戦術(ばんがいせんじゅつ)」という言葉があります。例えばわざとせきをして、相手のじゃまをしたり。もしかすると羽生さんが寝るのも「盤外戦術」? いいえちがいます。
羽生さんが寝る理由はただひとつ、それは「睡眠不足」。
これは羽生さんのスケジュールを考えれば分かります。羽生さんはいくつもタイトルを持っているので、しょっちゅう防衛戦をしています。タイトル戦は朝から夜中まで戦いますし、場所までバラバラ。月曜日は九州、木曜日は北海道なんてザラです。
『戦う頭脳』の沢木耕太郎さんとの対談で、羽生さんの忙しさが分かるエピソードが紹介されています。
羽生 順位戦のように持ち時間の長い将棋だと、時間をフルに使って、感想もいっぱいやると、だいたい午前三時か三時半。家に帰るのは四時とか四時半。
沢木 あまり余裕がないじゃないですか。
羽生 ええ、だからもう、私は秒読みに追われるようにして寝ているんです(笑)。
羽生 ずっとやってきた中で、私にとって危険信号みたいなものがあってですね、朝、遠征先で起きて、ここがどこが分からなくなったときは、結構危ないですね。ホテルの部屋ってわりと似たつくりですし。
今すぐ羽生さんにあたたかい毛布と布団を! これだけハードな生活をしていたら、そりゃ眠いです。つまり忙しくて寝不足だから、勝負の最中に寝てしまうのです。
では寝てるのに勝つのはなぜでしょうか?
それは短い時間でも仮眠をとることで頭がスッキリして、集中力がアップするから。覚醒した羽生さんは手が付けられません。ジャッキーチェンは酔えば酔うほど強くなりますが、羽生さんは寝れば寝るほど強くなるのです。
さきほど羽生さんが寝るのは「盤外戦術」ではないと言いましたが、負けた相手にとってはトラウマ。目の前でぐーすか言ってる人に負けるわけですから、メンタルはもうズタボロ。ただ眠いから寝てるだけなのに、それだけで相手に致死量のダメージを与えてしまう将棋の鬼。それが羽生さんなのです。
参照動画 【第61期】羽生三冠 眠る【王座戦】