「あっ、羽生さんの手が震えました」「ということは、羽生さんの勝ちですね」。
将棋番組を見ていると、解説者がそんなやりとりをしていることがあります。どういうことかというと、羽生さんは自分が勝ちだと分かると、手が震え出すのです。しかも震えたら、100%羽生さんの勝ち。
どれくらい震えるかと言うと、もうぶるぶるいっちゃってます。震度でいえば6強。
例えば「名人戦」で森内さんと戦ったときなんて、震えすぎて森内さんの駒までふっとばしてますから。ガックリきたでしょうね、森内さん。羽生さん震えてるから負けるだろうし、そのうえ駒までぶっ飛ばされて。ご愁傷さまです。
では、なぜ羽生さんの手は震えるのでしょうか?
他の将棋を指すプロは震えません。震えるのは会いたくて震える西野カナくらいです。
手の震えについて羽生さんは、『戦う頭脳』という本の中でこう語っています。「勝ちを読み切ったものの、最後まで油断してはいけないと思ったときに起こる現象のようです」。
分かりやすくパチンコで例えると、最後の玉で99%当たるスーパーリーチがかかったようなもの。当たりはほぼ確定だけど、もしかすると外れて負けるかもしれない。そのドキドキで手が震えてしまうと。
もちろん上の理由もあるでしょうが、本当の理由ではないとニラんでいます。手が震える本当の理由、それは「勝利というエクスタシー寸前だから」。
何をすっとんきょうなことを言ってるんだ? と思われるかもしれませんが、羽生さんにとってこの世で最大のエクスタシーは、将棋に勝つこと。ですから勝ちを読み切ると脳内麻薬がバンバン出て、興奮を抑えきれず手がぶるぶる震え出すのです。
しかも「名人戦」など、プレッシャーのかかる大一番ほど震えが大きくなります。つまり手の震えの大きさは、エクスタシー度の高さに比例しています。
そんなエクスタシー寸前の状態だから、手の震えは止められない。名人にこう言っては失礼ですが、興奮するとおしっこが出てしまう「犬のうれション」と同じ。自分ではどうすることもできないほど、高ぶってしまう。
ですがそんな「あられもない姿」を隠さず見せてくれるのが、生の人間らしくて最高にしびれるのです。