数年に一度、気になることがある。それはitumon(いつもん)の正体は誰なのか? ということだ。itumonとは主にタイトル戦などプロ棋士の対局をリアルタイムで解説し、トッププロ顔負けの読み筋を披露する、正体不明のtwitterアカウント(@itumon)である。一体このitumonは誰なのか? 正体を暴いてやろうと思い、過去3万件以上のツイートを全て読み込んだ。itumon自身が正体を明かしていないのでどこまで行っても推測の域を出ないが、せっかく研究したので聞いて欲しい。
▲2二歩成には△3三金▲3二と△同銀▲2二飛成△7八桂成▲同玉△3一金▲2九龍。▲2二飛成は次に▲2一馬がありますので、勿体ないようですがじっと金を投資。▲2九龍以外の引き飛車は△8八歩でしびれそうです。▲同玉でも▲7七桂でも△8六飛。以下切って△6九角が猛烈に厳しそう
— itumon (@itumon) 2009年7月31日
itumonの名前の由来
そもそもなぜitumonという名前なのか? itumonは複数人で運営されていてその頭文字を取ったという説があるが、それはガセだ。itumonは初め2ちゃんねるの将棋板で匿名で書き込みをしていた。掲示板を見ていた人はその精度の高い読み筋に驚き、次第に対局が始まるとその人の登場を待ちわびるようになる。その時に言われていたのが、「いつもの人まだかな?」で、それが略され「いつもん」と呼ばれるようになったのだ。本人も以下のようにつぶやいている。
いつもの人→いつもん→おくいずもん→紫のバラの人→ドSの君。呼ばれ方の変遷。なんだこれ^^でも変な話ですが、なにかとネタにして頂いているうちが花だと思っていますのでありがたい事と思っています^^あと、本当に大したものでも事もしていませんので、あまり気を使わないで下さいね^^
— itumon (@itumon) 2011年5月27日
itumonの正体
気になるのはitumonは一体何者なのか? ということ。タイトル戦をリアルタイムで検討している様子はどう見ても素人ではなく、プロ棋士ではないかと思えてくる。そこでプロ棋士に的を絞る。itumonは対局中にリアルタイムで検討しているので、対局中の人物はitumonでないと言える。そこで過去全てのツイートを調べ、itumonにリアルタイム解説をされた棋士を調べた。結果がこちら(敬称略)。
阿部健治郎、阿部隆、伊藤真吾、井上慶太、稲葉陽、羽生善治、浦野真彦、永瀬拓矢、遠山雄亮、横山泰明、丸山忠久、久保利明、及川拓馬、宮田敦史、橋本崇載、郷田真隆、戸辺誠、広瀬章人、行方尚史、高橋道雄、高崎一生、今泉健司、佐々木勇気、佐藤康光、佐藤天彦、斎藤慎太郎、阪口悟、三枚堂達也、山崎隆之、糸谷哲郎、松尾歩、上野裕和、上野裕和、森下卓、森内俊之、深浦康市、真田圭一、菅井竜也、瀬川晶司、星野良生、西川和宏、青嶋未来、石川陽生、先崎学、千田翔太、船江恒平、増田康宏、村山慈明、村田智弘、大橋貴洸、大平武洋、谷川浩司、竹内雄悟、中座真、中川大輔、中村太地、中村亮介、中田功、中田宏樹、長沼洋、塚田泰明、田村康介、田中悠一、渡辺大夢、渡辺明、都成竜馬、藤井聡太、藤井猛、南芳一、日浦市郎、畠山成幸、八代弥、飯塚祐紀、飯島栄治、豊島将之、北島忠雄、北島忠雄、木村一基、門倉啓太、鈴木大介、脇謙二、澤田真吾、屋敷伸之
上に出てきた棋士はitumonではない。だが名前の出ていない棋士を調べても、どうもピンとこない。その誰もitumonっぽくないのだ。それにitumonは羽生さんのタイトル戦を数多くリアルタイム検討しているので、羽生さんと同等の棋力があるはず。そう考えるとitumonはA級の棋力があるのではないか? そう思いA級棋士にまつわるツイートを再度洗うと、興味深いデータが浮かび上がった。それは屋敷九段の対局だけ、たった2局、しかもあっさりとしか検討されていないのだ。他のA級棋士は何度もリアルタイム検討されているのにこれはおかしいじゃないか。ここで考えたのが、itumon=屋敷九段説である。理由は色々ある。
何と言ってもitumonの書き込みと、屋敷九段の人柄がリンクするのだ。実際の屋敷九段はいつもニコニコしているが、itumonも「^^」の顔文字を多用している。あとitumonは屋敷九段と同じく居飛車党と言っているし、コンピュータ将棋にも好意的だ。実際、屋敷九段は電王戦で将棋ソフトポナンザと戦っている。また細かい所では屋敷九段の口癖と思える「いやー」と「まあ」という言葉もそこそこ出てくる。そしてとてもとても丁寧で優しい。読んでいる人を傷つけないよう気遣っているのが伝わってくる。まさに屋敷九段のイメージにぴったり。
あと基本的にどなたの事を呟くのであれ、公開された情報、そしてその方の奥様や恋人の方が見られてると思ってな呟く。というのが掟です。検討してる時は特に^^
— itumon (@itumon) 2016年8月27日
itumonとしてTwitterをやるようになったのは8年前の木村八段の王位戦がきっかけという本当の話
— itumon (@itumon) 2016年8月21日
対コンピュータは対人間からすればやや変則なピッチャーなんです
ただ棋士の中にも、逆にあえてコンピュータの指し手などを積極的に取り入れ、ガンガンコンピュータと指す中でフォームを固められる人もいらっしゃるのでそこもまた面白いですよね^^
私は好きです
— itumon (@itumon) 2016年1月28日
でもまぁこれも身から出た錆
— itumon (@itumon) 2014年2月28日
皆様コメントお送りくださりまして本当にありがとうございました^^あまりの多くの温かなコメントに返信は難しく(本当に合申し訳ありません)のですが全て読ませていただきとても励みになりました^^本当にありがとうございました^^
— itumon (@itumon) 2012年10月6日
しかしitumon=屋敷九段となると、さっきの屋敷九段の対局を検討したのは誰なのか? 自身の対局中にスマホを取り出してつぶやくのは不可能だ。他にも屋敷九段には当てはまらないツイートがある。
自分が級位の頃はどうだったか、と考えてみましたがプロ公式戦で見た戦法を「これは良い戦法だ!」と片っ端から真似していたような気がします。子どもの時に流行っていた戦法ですから、「藤井システム」や「横歩取り△8五飛」ですね(さりげない平成生まれアピール、なうでヤングないつもんです)
— itumon (@itumon) 2013年3月16日
ふーん。いつもんは既婚者で設定されてるんだー、ほー、なるほどー。まぁ実際は○○なのですが、とご想像にお任せします。と手を渡します^^(日常で使う将棋用語)
— itumon (@itumon) 2011年5月31日
平成生まれ? 既婚者ではない? う〜ん困った。itumonのツイートを読めば読むほど正体が遠ざかる。変幻自在なitumonの指し手にすっかり惑わされてしまった。どう考えても一人に絞れない。そこで考えたのがitumon=複数人説だ。これなら先ほどの対局中のツイートも説明がつく。
初めは屋敷九段一人でitumonをやっていたが、様々な事情があり複数人で運営せざる得なくなったのではないか? ここからはitumon運営の歴史を振り返り、itumon=複数人説を立証していきたい。
まずitumonが2ちゃんねるからツイッターに移行した2009年のつぶやきを調べる。対局のリアルタイム解説に没頭しており、今のitumonに見られるような将棋界のニュースや告知はほとんどない。その後将棋の本やテレビ番組の宣伝ツイートが増えていく。おそらく屋敷九段はフォロワーが増えたitumonの影響力の大きさを感じ、将棋界を盛り上げるために告知ツイートを始めたのではないか。itumonにとってこの点が最初の大きな変化だろう。2ちゃん時代のように大好きな将棋の検討だけしている訳にはいかなくなったのだ。屋敷九段にとっては2009年6月までのitumonが一番幸せだったのかもしれない。
▲3四歩はこれも詰めろですが△同角は▲2四金~▲3四金△同歩の形が後手玉の逃げ道を塞いで駄目。そこで……△4三金ですか、▲3三歩成△同金▲3一銀△4三玉、ここで▲2二銀不成が詰めろ?ぽいので△3二金と受ける。はー、厳密には受け切れそうですがちょっとすぐはわからないですね。いやー
— itumon (@itumon) 2009年7月31日
もしかするとこの頃に屋敷九段は将棋連盟にitumonの話をし、協力者を見つけたのかもしれない。itumonがつぶやく将棋ネタは幅広く、情報提供者なしでは成り立たないだろう。現にitumonはこんなつぶやきをしている。
なお、いつもんの情報は黒脛巾と呼ばれる忍者軍団が集めてきます。
— itumon (@itumon) 2011年9月4日
そしてitumon=複数人説を裏付けるツイートも出てきた。
【おしらせ】いつもん検討陣が色々と変わります。へボな書き込みが多くなる事と思いますが、変わらずお付き合い頂ければなと思います^^新しい事も色々とやろうと思っています^^
— itumon (@itumon) 2012年7月1日
ハッキリ「検討陣」と言っており、複数人での運用を示唆している。将棋の検討ツイートは屋敷九段が担当し、将棋ニュースは協力者が集めているのが実態ではないか。
itumonの葛藤
そして2016年、将棋界に大事件が起こる。三浦九段のスマホ使用疑惑事件だ。それまで順調だったitumonも、この大きな波に飲み込まれることになる。この時のitumonの態度は非常に印象的であり、また屋敷九段を強く感じさせるものだった。
ですがなお「実は三浦九段、やっていたんでしょう?」「疑われるには理由がある」というご意見を拝見致します
どうかそのお言葉はなにかの不正の証拠が見つかるまで胸に納めて頂きたく思います— itumon (@itumon) 2016年12月28日
三浦九段には奥様がいて、1歳のお嬢様がいらっしゃいます
その子が大きくなった時、冤罪により「お前の父親は不正」等と事実無根の中傷に傷つくような事は断じて許される事とは思えませんどうか但木敬一様の調査を信じここはなにとぞそのお言葉をお納め頂きたく思います
— itumon (@itumon) 2016年12月28日
潔白と信じて書きました。
拙い文章で誤解を与えてしまい誠に申し訳ありません
ご指摘ありがとうございます— itumon (@itumon) 2016年12月28日
当時ここまでハッキリと三浦九段が潔白と表明した将棋関係者は少ないだろう。「誰も傷つけない」をモットーにしているitumonとしては、相当踏み込んだ発言で正直驚いた。三浦九段と10年前から研究仲間である屋敷九段は黙っていられなかったのではないか。だからこそitumonの鎧を脱いでまで潔白宣言をしたのではないか。
ただこの一件は葛藤があったようで、itumonとしてこう本音を吐露している。
こんなこと呟きたくていつもんやってた訳じゃないんだと思ったら泣けてきた
— itumon (@itumon) 2016年10月19日
そして事件からしばらく経ったある日、itumonはこうつぶやいた。
もうお気付きの方もいらっしゃいますがひっそりといつもん解散します
モチベーションの問題、新しい宇宙を見てみたくなった等理由は様々です
Twitterをやめるというのではありませんが色々変わると思います
楽しい時間をありがとうございました、これからもよろしくお願いします— itumon (@itumon) 2017年1月4日
これはメインでitumonを牽引していた屋敷九段が検討から距離を置いたのではないか。モチベーションの低下というのは、ソフトの実力が上がり検討の役目を終えたという一面もあるだろう。その後のitumon、2018年現在のitumonは少し変わったように見える。初期の丁寧すぎるくらい丁寧なitumonが懐かしい。
itumonの夢
itumonは何度か自身の夢を語っている。ぜひこれからその夢を叶えて頂ければと切に思う。
いつもんとしての今年の夢
・将棋情報サイトを作る
・観る人のための簡単な将棋ガイドをいよいよ作る
・将棋カードゲーム「棋士コレクション」を作る(無許可で)
・勝手に「ひきかく君」のきぐるみを作って「ひきかっく~」と言いながら一暴れして各方面に多大なご迷惑をおかけする
続く— itumon (@itumon) 2014年1月22日
長々書き連ねたが、全ては私の妄想であり確かなことは一つもない。つじつまが合わない所もあるだろう。itumonの正体を暴いてやろうという不純な動機で始めたが、itumonのツイートを読み進める度、その将棋に対する愛情と情熱に胸が熱くなった。そしてファンに対する真摯な態度にはただただ頭が下がった。読んで頂きありがとうございました。